”辻元よしふみの世界”からあなたは帰れなくなるかもしれません。

缶詰の甘いだけのフルーツ

缶切りがあるなら
それを操るだけの知恵と
高圧プレスされた鋼の板をひっぺがすだけの
握力と勇気があるなら いつでもどんなときにでも
甘いフルーツぐらいは口にすることができる
ただ時々
缶切りの使い方が分からなくなるだけのことだ

それにしても
べとべとのシラップが
そんなに口にやさしいかどうか
もんだいはそこ
だな

缶詰のフルーツはひたすら甘くて
ピーチでも洋梨でもパインでも
なにもかもが同じ味
よくできたマニュアル通りの
均質一様な味覚が
法定賞味期限のもとに
あなたのお口に
提供されます そんで
疑問を持たぬこと それが現代の
 なんだ
  美? 違うな
  ニュートリノ? 関係なさそうだし
  処世術 まあそんなもんか
      まあいいんじゃないか
     体にすごく毒だというものじゃあるまいし
     でも甘いだけのフルーツは嫌い
    そう言い張る女の子が一人 知り合いにいて
   いや ひょっとしたら幼なじみだったかな
  思い出せない
 本当の味なんて
いやそもそも
何が本当
誰が本当
本当って本当

     蟻の群れがミカンの缶詰の底にたまるシラップの海で
     歓喜に酔いしれながら集団で溺死している
     至上のあまさに 触覚から滴を垂らして
     絶命していく 晩夏の太陽が鋭く射す白い光の中で
違うって 批判なんかしていないさ 
それに僕は人工的なもの 大好きさ
二十一世紀なんだよ 構わないことさ

缶詰の甘いだけのフルーツなんて嫌い
そう言ってたのは
確かテレビゲームの登場人物だった

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